普段お茶を選ぶときに、茶葉ばかり気にしていませんか?
実はお茶の味や色を決めているのは茶葉だけではなく、水も大きく関わっているのです。
例えば、日本で普段飲む茶葉をヨーロッパに持っていって、同じようにお茶を淹れると全然違うお茶になってしまうのです。
今回は水がお茶にどう影響するのか、好みのお茶にするにはどうすれば良いのかを解説していきます。
突然ですがクイズです
美味しい緑茶にする水の3つのポイント
おいしい緑茶を飲むためには、茶葉だけでなく、それにあった水が必要です。
よく茶葉だけを気にされがちですが、茶葉だけでは最高のお茶にはたどり着けません。良い茶葉に使う水の条件が整っていれば、お茶の香り、色、味をより一層高めてくれるのです。
お茶をより一層美味しくするための、水のポイントは次の4つです。
- 硬度
- pH
- 温度
それぞれ詳しく解説していきます。
硬度
はじめに説明するポイントは『水の硬度』です。
そもそも硬度とは、水の中に含まれているマグネシウムやカルシウムなどのミネラルの量です。硬度が高いほど「硬水」、低いほど「軟水」と呼ばれます。硬水はコクがあって少しキシキシするような味で、軟水はスッキリとした味です。
緑茶に合うのはどっち
参考文献(※1)によれば
冒頭のクイズでもありましたが、硬水と軟水のうち緑茶に合うのは『軟水』です。
その主な理由は次の2つです。
- 硬度が低い(軟水)ほどカテキンが溶けやすい
- 硬度が高い(硬水)ほどお茶が濁っていく
お茶と水の硬度について調べた研究論文(※1)によれば、硬度が違う複数の水に同じようにお茶を淹れてカテキン量を測定したところ、お茶に多く含まれているカテキンの「エピガロカテキン」と「エピガロカテキンガレート」の溶出量が違っていたとのことです。硬度が高いほどこれらのカテキンは少なく、硬度が低いほど多く溶けています。
カテキンは豊かな苦味と、甘い後味が特徴の緑茶に含まれている代表的な成分です。このカテキンが少ないと緑茶としてのおいしさが損なわれ、また様々な健康効果も期待できなくなってしまいます。
また、同じ研究論文(※1)で、硬度が高くなるに連れて沈殿物が増えて濁りが強くなっていくことが確認されています。この沈殿物はカテキンではなく、お茶に含まれるシュウ酸が硬水のミネラルと結合したものである「シュウ酸カルシウム」とされています。
シュウ酸カルシウムとは、いわゆる「あく」の一種で、えぐ味の元になっている成分です。そのため、硬水で淹れたお茶にはこれらが多く含まれ、必要のないえぐ味を感じてしまうわけです。(※2)
以上のような理由からお茶を淹れるときは、硬度が低い「軟水」のほうが適しているわけです。
水の硬度を安い値段で測るものとして「おいしい水検査セット」という商品がありますので、興味がある方は測ってみてください。
pH
次にpHです。
pHは小学生の頃にリトマス試験紙で計測したあれですね。復習をすると、数値が低いほど酸性、高いほどアルカリ性となり、7が中間の中性となります。
水道水のpHは、ほぼ7で中性なのですが、厳密に見ていくと地域によってやや異なります。その理由は水道水の原水が流れる山の違いです。原水は山から川を伝って流れてきますが、その途中で山の土壌が水にわずかに溶けていっています。その溶けた成分や溶け方の違いによってpHが変わってきているのです。
以下は水道技術研究センターが提供している水道mapのスクショです。データはやや古いですが、多くの地域はオレンジになっておりややアルカリ性になっていることが分かる思います。しかし一方で関西や中部、東北地方の一部は酸性のところが多いですね。
もちろん水道水として流れているものは浄水場でpHなどを調整しています。厚生労働省では、「水道に流して良いのはこういう水ですよー。」と定めている「水質基準項目と基準値(※3)」というものがあります。それによると水道水のpHは「5.8以上8.6以下」と定められています。おそらくこの範囲であればそのまま飲んでも問題ないということなのでしょう。
しかし逆に言えば浄水場で調整してもなお、5.8~8.6までの差が出てしまうということです。
緑茶に合うのはどっち
様々な水でお茶を淹れたときの違いを科学的に研究した論文によれば、pHとの関係は次のように記述してあります。
(前略)緑色味(-a* 値)は有意差が認められなかった。しかしながら,黄色味(b*値)は,硬度が上昇するに従い,また,pH が上昇するに従い有意に強くなる傾向が認められた。(後略)
引用元:日本調理科学会誌「水の硬度が緑茶浸出液に及ぼす影響」
つまり、お茶の色味が違っていたということですね。pHが高い、つまりアルカリ性であればあるほど、お茶の色が黄色くなっていくのです。
いくつかの研究論文などを調べてみましたが、味についての違いをはっきりした記載しているものはありませんでした。
ちなみに「舞妓の茶本舗」さんのサイトでは「最適なpHは6.0~7.0」とされ、「世界ティーマスター協会(ITMA)」では「pHが7.8〜8.8の水(茶の種類は問わず)」を推奨しています。
そのため、pHに関して、見た目も含めて個人の好き嫌いで判断して良いものだと考えます。
ご自宅の水道のpHを測る器具はAmazonなどで販売してありますので、興味がある方は試してみてください。
温度
最後に水の温度です。通常緑茶を淹れる際は熱湯を使います。
しかし、熱湯と言ってもその温度は様々です。
一般的に美味しく飲めると言われているお湯の温度とその抽出時間は以下のとおりです。
- 緑茶: 温度: 76〜82℃ (169〜180 ° F ) 時間:1〜3分
- 紅茶: 温度:97–100℃ ( 207–212 ° F ) 時間:3〜5分
- ウーロン茶: 温度:90℃(194 °F) 時間:2〜3分
このなかでも、さらにお茶の種類を限定していけば(例えば玉露・煎茶・番茶など)、もっと細かく温度が決められています。
しかし、特に緑茶においては「必ずこの温度」という決まりはありません。その理由は温度によって味が大きく変わるからです。
緑茶に含まれるカテキンの1種であるタンニンは、苦味や渋味の成分です。このタンニンは高温でしか溶け出しません。そのため、高温でじっくり淹れたお茶はとても苦味が強いお茶になり、逆にぬるめの温度で淹れたお茶は甘みが強いお茶になるのです。
自分の好きな味になるような温度をしっかり見極めて淹れることが必要です。もちろん同じ温度のお湯で淹れても茶葉の種類が変わればまた違った味になります。熱い淹れたてのお茶が好きだけど、甘みが強いお茶が飲みたい場合は旨味成分が多いかぶせ茶をおすすめします。
水の種類や温度など、自分好みのお茶を見つける旅は思っているよりもずっと長い道のりですよ。
参考文献
※1 日本調理科学会誌「水の硬度が緑茶浸出液に及ぼす影響」三橋富子・田島真理子(https://www.jstage.jst.go.jp/article/cookeryscience/49/3/49_216/_pdf)
※2 日本調理科学会誌「ホウレンソウのえぐ味はシュウ酸に由来するか」堀江秀樹・伊藤秀和(20(https://www.jstage.jst.go.jp/article/cookeryscience1995/39/6/39_357/_pdf)
※3 厚生労働省 水道水質基準について(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/topics/bukyoku/kenkou/suido/kijun/kijunchi.html)