『玉露』は、日本で最も高級な緑茶の1つです。
一般的に玉露の荒茶(仕上げ工程前の茶葉)のグラム当たりの単価は、煎茶の2倍以上で、抹茶よりも高価です。そのため、「来客用のお茶」のような特別なときに使用されることが多く、日頃から玉露を飲む人はその生産地近くに住んでいる人やお茶好きな人など、ごく僅かです。
玉露は強い甘みと旨味をもち、まろやかな味わいを楽しめます。
この記事では日本の玉露がどのように作られているか、玉露を飲むメリットは何かなど玉露についてもっと知りたい方向けに解説していきます。
日本の玉露について
玉露とは?
玉露は日本で「最上級のお茶」とされる緑茶の1つでチャノキの葉っぱから作られている飲み物です。
生産量は日本の茶農家で生産されているお茶の約0.5%で、最も有名な緑茶である「煎茶」の約100分の1程度しかありません。数が少なく貴重ということもあり、そのほとんどは日本国内で消費されています。
また日本のチャノキの多くは有機栽培ではありませんが、世界的にも厳しい日本の農薬基準のもとで管理されています。
玉露の味は?成分は?
玉露は濃い緑の風味と旨味・甘味が強く、まろやかで濃厚な味わいが特徴です。
玉露の茶葉には煎茶などの他の緑茶に比べて、アミノ酸が多く、カテキン類が少ないのが特徴です。
アミノ酸は甘味や旨味を感じる成分で、カテキン類は苦味や渋味を感じる成分です。そのため玉露は甘味・旨味が強い味わいとなります。また玉露の茶葉にはカフェインが他の緑茶よりも多いのですが、玉露はややぬるめのお湯で淹れるため、お茶の中にはカフェインが溶けにくいのです。
中国で作られる緑茶の多くはチャノキの葉っぱを「火にかけて(炒って)」仕上げられますが、日本で作られるほぼすべての玉露は「蒸して」仕上げられています。そのため、中国茶によく見られるような香ばしい甘い香りはなく、より新鮮な緑の香りが残っているのが特徴です。
お茶の色や味は玉露の種類・淹れ方によって少し変わってきます。
玉露を飲むメリットは?
緑茶の体への効果・影響というのは現在でも様々な国の大学や機関で研究されており、解明されていないことが多く残っていると考えられています。多くの緑茶のメリットは含まれている抗酸化物質から来るとされており、特にカテキンの1種であるEGCg(エピガロカテキンガレート)という物質に由来しています。そして玉露には(煎茶ほどではありませんが)EGCgを多く含みます。
現在報告されている緑茶を飲むメリット(健康効果)は以下の通りです。
- 抗がん作用:お茶をよく飲む人は特に胃がんを発症する割合が少ないです
- ダイエットを補助する:カテキン類が体内の糖の吸収を抑制します
- アンチエイジング:様々なビタミンが含まれ、壊れやすいビタミンCはカテキンの影響で壊れにくくなっています
- 高血圧予防:カテキン類は血圧を上昇させる体内の原因物質の1つを抑える作用があります
- 抗アレルギー作用:一部品種の緑茶はアレルギー症状を抑えるメチル化カテキンを多く含みます
- 悪玉コレステロール値を下げる:EGCgがLDLコレステロールの酸化を抑えます
- 食中毒予防:食事と一緒に摂ることで、食中毒の原因となる一部の菌の発育阻止をする効果があります
- 風邪予防:サポニンという物質が抗菌・抗ウイルス作用があり、特にお茶でうがいをすると効果的です
- 虫歯の予防:カテキン類が虫歯菌の繁殖を抑えます
※前述の通りまだ研究が進んでいる最中のため、後にこれらが否定される可能性もありますし、まだまだメリットが増えていく可能性もあります。
玉露の作られ方は?
玉露の作り方は煎茶とほぼ同じです。
摘み取った茶葉を加工する工程は、玉露と煎茶で全く同じですが、茶葉の育て方が違うのです。
育て方
玉露の場合、収穫する約20日前の葉に黒い布を覆います。これを被覆栽培(ひふくさいばい)と言います。これを行うことで葉への直射日光を遮り、保温することができるのです。そうすることによって、光合成が抑えられ、葉に旨味や甘味成分を凝縮することが出来ます。また、被覆栽培で葉にクロロフィルが増え、緑色が濃くなります。
ちなみに、収穫の約1週間前から被覆栽培をしたお茶を「かぶせ茶」といいます。似たような作り方のお茶ですが、厳密には玉露と異なるので注意して下さい。
被覆栽培の方法もいくつか種類があります。以下は玉露の生産で有名な福岡県の八女茶の生産風景です。
(Source:Googleストリートビュー)
摘み取った茶葉は、「荒茶まで」と「仕上げ」の2つの工程で加工されます。荒茶までは「乾燥」、仕上げは「火入れ(焙煎)」が主な目的です。
荒茶まで
- 蒸し:葉の青臭さを消して柔らかくします(酵素を失活させます)
- 葉振るい:熱風を使って葉の水分を均一に飛ばします
- 回転揉み:茎などに残った水分を茶葉全体で均一にします
- 揉み切り:葉を細かくしていきます
- 転繰揉み(でんぐりもみ):揉みながら葉の形を針状に整えていきます
- 乾燥:全体を乾燥させ水分含有量を5%程度にしたら完成です
仕上げ
- 乾燥:荒茶をさらに乾燥します
- 選別・整形:粉や茎を分別していきます
- 火入れ:分けた部材ごとに火入れ(焙煎)していき香りを引き立たせます
- 合組(ごうぐみ):火入れしたそれぞれの部材を調合し、お茶の完成です
玉露にはどんな種類があるの?
玉露は煎茶よりも濃く、甘い味わいが特徴です。しかし細かい色や味わいは非常に様々な種類があります。
煎茶と同じく玉露にも主に以下の違いで種類が分けられます
- 産地
- 収穫時期
- チャノキの品種
- ブレンディング
○産地
産地によって気象条件や土壌が変わるため、同じ品種の木を使って煎茶を作っても産地ごとに違う味になります。
収穫年によって差はありますが、日本で玉露が生産されているのは、京都府、福岡県です。煎茶で有名な静岡県や鹿児島県では玉露の生産量は多くありません。有名な銘柄として以下のようなものがあります。
- 宇治玉露(京都)
- 八女玉露、八女伝統本玉露(福岡)
○収穫時期
緑茶はは主に春、夏、秋に収穫されます。中でも玉露として収穫されるのは主に春です。
1年で最初に収穫(4月前後)された煎茶は『新茶(一番茶)』と呼ばれ、とても人気があります。2番目以降に収穫(6月~9月)されたものはそれぞれ『二番茶』『三番茶』、、、と表現しますが、新茶よりも味が劣るため、これらは通常商品名やパッケージには記載していないことが多いです。その分安く販売されています。
一般的に収穫が早いお茶(一番茶)のほうが苦味成分であるカテキンが少なく、甘み成分であるアミノ酸類が豊富に含まれるため、甘いお茶に仕上がります。そのため一番茶の玉露は特にその甘味を引き出すことが出来るのです。
実際、玉露を生産している茶農家でも、2番茶以降は被覆栽培をせず、煎茶として収穫するところもあります。
○品種名
玉露を作るのために使われるチャノキの品種によってもその種類が変わります。
日本では生産面積の約7割が「やぶきた」という品種であり、ほとんどが煎茶として生産されています。しかし玉露用のチャノキは「アサヒ」や「ごこう」、「うじみどり」など様々な種類があり、それによって特徴も様々です。
○ブレンディング
最終的に製茶所で仕上げられたお茶は、いくつかの農家の茶葉をブレンドされて商品化されることがよくあります。同じ工程で作られたお茶でもこの混ぜる割合などによっても種類や商品名が変わります。
これにはいくつかの理由がありますが、その一つは量を確保するためです。小さな農家で収穫された少量の茶葉を大量生産の製茶所で仕上げるには効率が悪いため、いくつかの農家の茶葉を合わせて製茶されるのです。
また、玉露は高級であるため「玉露入り」の煎茶として販売されていることも多くあります。これらに使われている玉露はやや品質が劣るものを使用している場合があるため注意が必要です。
玉露の淹れ方
玉露は煎茶とは少し淹れ方が異なります。個人差があるため人によって「この淹れ方が一番美味しい」というのは変わりますが、ここでは一般的に美味しいとされている玉露の淹れ方についてご紹介します。
用意するもの
- 玉露の茶葉
- さじ(スプーン)
- 湯呑
- お湯
淹れ方
- 沸騰したお湯を何も入っていない急須に入れます(1人あたり20ml)
- 急須から湯呑にお湯を移します
- さじを使って急須に玉露を入れます(1人あたり約3g)
- 湯を約50℃程度まで冷まします。
- 湯呑に入ったお湯を急須に注ぎます。
- 約3分待ちます
- 急須から湯呑に玉露を少しずつ注いで完成です
解説
まず、玉露に適したお湯の温度は「約50℃」と言われています。熱いお湯で淹れてしまうと、苦味成分であるカフェインなどが多く溶け出してしまい、非常に苦味が強いお茶になってしまいます。同時に玉露独特のまろやかさや風味が損なわれてしまうのです。
茶葉を急須に入れ、お湯を注いだあとで「3分間」待つのは他の緑茶に比べて長いです。これはお湯の温度が約50℃と低いため、味や香りを抽出するのに時間がかかってしまうためです。
煎茶に比べてお湯の量が少ないのも特徴です。お湯の温度が低い分、抽出の効率も悪いため、少ないお湯で淹れることで濃い玉露を美味しくいただくことが出来ます。
最後に湯呑に入れる際に、少しずつ注ぐのは味を均一にするためです。急須から出るお茶の最初と最後では濃さが全然違います。特に2杯以上を作る際には、それぞれで違う濃さにしないために、少しずつ分けて注いでいくのが正しい淹れ方です。ちなみに最後の1滴までおいしく飲めるので、しっかり注ぎきりましょう。
参照:
[1] http://www.maff.go.jp/e/policies/agri/attach/pdf/index-1.pdf
[2] https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6100455/
[3] https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/1806661
[4] https://www.jstage.jst.go.jp/article/cha1953/1996/83/1996_83_21/_article/-char/en
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