タピオカは2018年頃から日本で3回目のブームを巻き起こしました。タピオカのようにトレンドというものは歴史を繰り返すということを、皆さんよくご存知ですよね。トレンドは永遠に続くように感じて、徐々に消えていき、そして時代を超えて再び火がつくものです。タピオカのように、私たちはレストランや食品業界、ファッションなどの多くのトレンドの変化を見てきました。お茶業界も例外ではありません。
近年、お茶やそれを取り巻く業界では5つのトレンドに取り組んでいるのが見て取れます。中には数年間継続しているものもあれば、つい最近始まったものもあります。これらは新型コロナウイルスCOVID-19のパンデミックによって起きたのか、健康志向の高まりから自然に起きたのかは分かりませんが、お茶好きの私たちやそれらを扱う会社はこのトレンドを上手く生かして、よりお茶業界を発展させたいと思っています。今回はそのトレンドについて詳しくお伝えします。
1.コーヒーを飲む人たちを巻き込む
日本を含めて、世界ではコーヒーの愛飲家がたくさんいます。朝にコーヒーを飲んで目を覚まし、気持ちをスッキリさせることで、その日を快適に過ごす文化は広く根付いていますね。まずはこの現状をアメリカを例にお話します。
National Coffee Associationの2020年のレポートによると、アメリカ人の10人に7人が毎週コーヒーを飲み、62%が毎日コーヒーを飲んでいることが報告されています。これにより、年間平均1,840億杯以上のコーヒーが消費されているのです。
一方お茶はどうでしょう。米国茶協会によると、「2019年、アメリカ人のお茶の年間消費量は38億ガロン以上」とされています。この量はコーヒーの消費量の約5分の1程度でかなり少ないです。しかし、家庭にお茶を置いているところは、全世帯の80%近くで見られ、それらの家庭ではコーヒーと同時にお茶も楽しんでいるのです。つまりお茶は「普及率は高いが消費量が少ない飲み物」と言えるでしょう。
そして近年、自身を「コーヒー好き」と考えている人たちの中で、コーヒーからお茶に切り替えている人が増えてきています。これは主に健康上の理由によるものが大きいと言われています。
まず最初に挙げられるのはコーヒーのカフェイン量です。コーヒーに含まれるカフェイン量は非常に多く、過剰摂取により健康に影響を与えてしまう飲み物です。近年エナジードリンクの過剰摂取によるカフェイン依存症や中毒について、ニュースで時々見かけるようになりました。実はコーヒーもエナジードリンク並みのカフェインを含んでいるため、のどが渇いたときにゴクゴク飲むのはあまり適していません。しかし一方でカフェインは仕事や生活のパフォーマンスを上げ、ある程度必要だと考える人が多いため、普段の飲み物をカフェイン摂取量が比較的少ない「お茶」(玉露や抹茶は例外ですが)に切り替えているのです。
次に挙げられるのは、味の強さです。コーヒーは非常に刺激的で味が強い飲み物です。これを日常的に摂取することで舌の機能がマヒし、より味の強い食べ物や飲み物を好むようになることが指摘されています。つまりコーヒーを継続的に飲むことで、食べ物の味が強いものに偏り、結果的に塩や砂糖などの取り過ぎになるのです。この流れを断ち切ろうと考える人が比較的味が薄い飲み物であるお茶に流れてきているようです。
コーヒーに入れる砂糖やシロップの糖分を気にするなど、他にも理由は考えられます。いずれにしても、お茶業界はこの『コーヒーからお茶』への流れを加速させていきたいと考えているようです。実際、お茶の商品広告やキャッチコピーを見ても、「他のお茶との違い」ではなく「コーヒーとの違い」を謳うものが増えています。他にもコーヒーをメインに扱ってきた喫茶店が、おしゃれなお茶も提供するようになってきています。このトレンドはこれからもまだまだ継続されていくでしょう。
私個人としてはコーヒーからお茶に完全に置き換えるのは難しいため、「嗜好品としてのコーヒー」、普段よく飲む「飲み物としてのお茶」と言う風に2つをしっかり棲み分けることが重要ではないかと思います。
2.明確な目的が謳える商品を作る
自分にあった「おいしいお茶を飲む」というのはもはや当たり前です。そのうえで「このお茶を飲んだら、こんないい事がある」という目的をはっきりさせた商品が増えています。
実はこのトレンドは、世界で起きる少し前から日本ではすでに起こっていました。その理由は日本の青汁ブームです。この青汁を飲むことで「血圧の上昇を和らげる」「お通じをよくする」「睡眠の質を上げる」など、飲み物に明確な目的を付けることでターゲットを絞り、購買意欲を掻き立てるやり方が成功していったからです。
世界のお茶業界でもこのトレンドに乗った商品が増えています。例えば、お茶の葉をそのまま販売するのではなく、生姜を混ぜて販売し「寒い冬に体を温め、お茶の健康効果も一緒にとれる」などのキャッチコピーを謳うものです。この例から分かるように、お茶を単体で売るよりも、何かと混ぜて販売したほうが具体的な謳い文句が作りやすいのは事実です。そのため、このトレンドは「お茶の関連商品を増やす」とも言い換えられるでしょう。
3.人間味を作る
世界中のお茶を飲む人の中に、そのお茶の作られ方や健康効果などの知識を持っている人はどのくらいいるでしょうか。おそらくほとんどの人はよく知らないでしょう。お茶はもちろん、人や事柄であっても、その豆知識や裏話を知っていれば人間の興味はより強くなるものです。それなのに生活に馴染みのあるお茶について知っている人はごく僅かです。
お茶の歴史、作り方、名前の由来など、お茶に関するちょっとした情報を提供することで、飲む人と飲み物のつながりを深めていくことがお茶業界の近年のトレンドになっています。国や市町村、協会などに教育の場を任せるのではなく、各企業がほんのちょっとした知識を付け加えることによりお茶(商品)に、ある種の「人間味」を加え、ブランディングへとつなげていっているのです。
例えば、お茶を提供している喫茶店のメニューにそのお茶の製法や苦労話を少し載せてもらうだけでも違うでしょう。例えば、商品パッケージに名前の由来を書くだけでも違うでしょう。
お茶業界では商品のいいところだけを伝えるのではなく、ちょっとした裏話を教える機会を探っています。
4.選択肢を増やす
お茶の品質を追求することはもはや当たり前です。人々はお茶の品質よりも利便性と幅広い選択肢を求めているのです。これは日本でお茶離れが起きているにも関わらず、ペットボトル飲料のお茶の売上が好調なことにもつながります。
1900年頃に作られたティーバッグはお茶業界に衝撃を与えました。しかし当時は、その製造の手間からくる価格の高さはもちろん、お茶を淹れること自体を人々が楽しんでいたこともあり、普及には時間がかかってしまいました。しかし時が経ち、技術が進化したことや人々の考え方、生活リズムが変わったことで、ティーバッグの「手軽に飲める」というやり方は多くの人々に受け入れられていきました。
もちろん、これまで通り茶葉だけで販売し、自身で淹れてもらうやり方がなくなったわけではありません。それも楽しみ方の一つだからです。そしてペットボトルでそのままいつでも飲めるというのも楽しみ方の一つです。
このように現在では、昔に比べて人々の趣味や考え方、時間の使い方というのが細分化され、流通業界では様々な選択肢を求められるようになりました。そのため生産する側も、一部の大企業を除いて、大量生産ではなく多品種少量生産が求められているのです。このトレンドで言う多品種とはお茶の品種や種類のことではなく、飲み方や淹れ方の種類です。急須を使わなくても淹れたてを手軽に作れる水筒であったり、溶かして飲む粉末緑茶もその一つです。
品質を追求し、味や香りだけで他社との違いをつくるだけでなく、飲み方・淹れ方への違いを追求するこのトレンドは業界が大きく変わるまでは続くのではないでしょうか。
5.地元に回帰する
冷戦が終わった1990年代から、世界はこれまで以上にオープンになり、人々は異国文化や商品というものに強い興味を示してきました。しかし近年、人々の関心は世界から自国へと、さらには地元へと回帰しつつあります。
この流れが特に強まったのは新型コロナウイルスのパンデミックの影響でしょう。人々は世界を旅したり、国内の他の地域に行くことを一部禁じられ、地元に目を向けざるを得なかったからです。これは決して悲観的なことではなく、人々は自国や地元の良さを再発見する良い機会となったと言えます。これにより、外からのお客さんを見ていた旅館やレストラン、農家など様々な業界はより地元のお客さんを大切にするようになりました。
お茶業界も例外ではありません。決して多くはないですが、少なからず地元や近隣地域のお茶の良さを再発見した人たちがいます。生産者や販売者は、外から内側へと力のかけ方を変化させ、自社の商品を再び地元に根付かせようとするトレンドが最も新しいお茶業界のトレンドと言えそうです。
さいごに
ここまで5つのトレンドを紹介していきましたが、お茶業界で起こっているトレンドはこれで全てではありません。トレンドを上手く読むためには、耳を大きく広げ、様々な考え方を捉える柔軟な思考を持つことが重要です。
トレンドは生き物のようにいずれ終わりを迎え、再び誕生します。これまでの常識は常に変化することをしっかりと意識し、時代から取り残されないよう、これからもお茶業界を発展させていきたいですね。
出典:worldteanews(https://www.worldteanews.com/issues-trends/five-tea-trends-2021-perspective-tea-shop-owner)
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